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虐待予防は母子保健から

里親入門

「虐待予防は母子保健から 指導ではなく支援」鷺山拓男著 東京法規出版 990円から抜粋してとりまとめました

保健師の仕事

子どもの虐待やネグレクトは子どもの健康問題で、親を援助することによって子どもの健康な発育を守るのが保健師の仕事。

保健師の仕事は健康を守る援助であり、犯罪を取り締まることではない。

援助の糸口として、母子手帳交付時に妊婦に会い、援助関係を形成し、その妊婦の生活状況を健康問題の観点から把握し、必要な支援をする。

妊娠中から2歳までの訪問が親の人生の健康度を改善する。医療職でない準専門職が訪問を行った場合は事前の訓練と十分な指導体制があっても効果が低く、限定的となることが示されている。養育能力の低い傷つきやすい親たちが、看護職(保健師)の訪問にはより多くドアを開ける。

保健師は訪問などで援助関係を形成し、本人の納得を得て援助を行う。やむを得ず、強権的な介入がなされた場合は、それでも援助を拒否されない関係が保健師との間で形成されていたかが問われる。

援助とは

児童福祉は子どもが援助対象で母はその保護者なのに対して、母子保健は母が主たる援助対象であることが根本的な違い。母が自身の健康や人生を大切にできるようになることで、子の予後が改善する。

わが国の社会は育児の責任を母親に押し付け、孤立した子育てへと追い込む。援助の目標はよい母親になるように指導することではない。母性神話の呪縛を解き、育児支援を利用してよいと思えるように援助する。

親への援助では、援助者側の落ち着きが大切で、善意はしばしば有害であり、熱意は非常に危険であり、正義はもっと危険。

援助の大原則

援助の大原則は以下の9項目

①援助者自身が母性神話に汚染されていないか、十分に内省する。

②母性神話を押しつけない。

③叱責しない。

④頑張りなさいと励ましてはならない。

⑤孤立無援感に深く共感する。

⑥これまでの努力を十分にねぎらう。

⑦これ以上頑張らなくてよいと保証する。

⑧母親をやらなくていい時間をつくる、そのための具体策を一緒に考える、育児負担を軽減もしくは免除されて正当だと保証する。

⑨一人の援助者が抱え込まない。

地域社会

ヒトは共同繁殖の動物であり、子育ての責任主体は地域社会である。

虐待とは虐待する親の問題ではなく、養育能力の低い親と子どもを孤立に追い込む地域社会の問題である。虐待行為をとがめる意味合いの直接的な質問を親の援助者はすべきではない。

歴史的経緯

2000年制定の児童虐待防止法は内容に問題があった。虐待する親への援助を児童相談所が行うという非現実的な設定であったこと、予防という観点が無かったことなど。

これを補う形で2002年6月に出された厚生労働省局長通知で、母子保健全般を通じて、虐待発生のハイリスク要因を見逃さないように努める。保健師の家庭訪問による積極的な支援を実施し、児童虐待を発生から予防する取組を行うことが施策として示された。

ところが、2005年の児童福祉法改正で要体協(要保護児童対策地域協議会)が設置されることとなったことが、虐待は要体協に任せればいいと腰が引けていく傾向が生じた。このことが自治体によって、母子保健の虐待予防の取組にかなりの差を生んだ。

虐待リスク

米国で虐待の存在を彰隆にしたケンプは、虐待が生じるには、親自身の被虐待歴や情緒的剥奪体験、親にとって失望させられる子ども生活上の危機、親の心理社会的孤立の4つの条件がそろっているとする。

虐待の生じるリスクとして家族機能を考えるとき、親の精神疾患、子どもの障害の受容をめぐる問題、親のアルコール問題、両親間のDV、親の被虐待歴や若年出産などが背景にある。これらの問題の多くは妊娠中からすでに存在する。ハイリスク妊婦であっても、保健師が援助関係を結びやすい最大のチャンスである。

具体的な進め方

妊婦全数面接や産婦新生児訪問、乳幼児健診では、出会う対象全体に保健師や保健センターの役割を伝え、ハイリスク家庭との出会い、援助関係を形成する大切な場とする。母子手帳交付時に実子するアンケート用紙や産婦新生児訪問の自己記入式質問票を通じて、保健師が家族のメンタルヘルスも含めた健康相談窓口であることを周知する。虐待ハイリスク要因の産後うつと育児不安の必要な家庭を地区担当保健師につなげる。3~4か月児、1歳6か月児、3歳児健診の目的を明確にし、幼児心理相談では、地区担当保健師は相談の場に子どもの遊び相手として同席し、心理職と事後カンファレンスを行い、虐待予防と発達支援の両側面で支援する。

これらの効果は、地区担当保健師による個別支援と連動で行うことが大切。

グループ

米国で1930年代からアルコール問題の自助グループが始まり、日本でも徐々にグループ支援が有効な方法として知られてきた。東京の子どもの虐待防止センターでは、1992年から相互援助グループが行われていた。

育児支援の目標は、親が「よい母親、よい父親になること」ではなく、「子どもの育てにくさや障害、さまざまな状況に自分なりに折り合いをつけながら生活し、子どもを虐待しないこと」。この「折り合いをつける」作業には、保健師の個別支援と連動したハイリスク親支援グループの活用が有効。

虐待ハイリスク親を支援する相互援助グループは、自助グループではなく、専門家の関与を必要とするサポートグループである。またグループ外での相互援助、援助側が把握していればむしろ有益。

2009年に立ち上げた個別支援との連動を重視したハイリスク親支援グループでは、毎月1回、保健師が紹介した母親のみが参加し、参加機関や回数の制限がなく、いつでも初回参加できる継続オープンの形で行っている。2015年には新たに精神科医による親への相談の必要性を感じ、親と子の相談室を開始している。

グループの効果には、希望をもたらすこと、私だけではなかったという体験、仲間として受け入れられること、他者を信頼し助け合うことを学ぶことがあげられる。批評せずに聴くという関係の中で、子育てを安全に行うことができない私であることを相互受容し、そんな自分でも存在してよいと自己肯定できるようになっていく。いまの自分の困難を先行く仲間の過去の境遇と照らし合わせ、自分の経過を客観視できるようになる。90分から120分のセッションを、保育士による完全母子分離、司会は保健師が行う、複数の保健師がグループの輪に入るという構造で行っている。

親子分離手続き

米国で1930年代からアルコール問題の自助グループが始まり、日本でも徐々にグループ支援が有効な方法として知られてきた。東京の子どもの虐待防止センターでは、1992年から相互援助グループが行われていた。

育児支援の目標は、親が「よい母親、よい父親になること」ではなく、「子どもの育てにくさや障害、さまざまな状況に自分なりに折り合いをつけながら生活し、子どもを虐待しないこと」。この「折り合いをつける」作業には、保健師の個別支援と連動したハイリスク親支援グループの活用が有効。

虐待ハイリスク親を支援する相互援助グループは、自助グループではなく、専門家の関与を必要とするサポートグループである。またグループ外での相互援助、援助側が把握していればむしろ有益。

2009年に立ち上げた個別支援との連動を重視したハイリスク親支援グループでは、毎月1回、保健師が紹介した母親のみが参加し、参加機関や回数の制限がなく、いつでも初回参加できる継続オープンの形で行っている。2015年には新たに精神科医による親への相談の必要性を感じ、親と子の相談室を開始している。

グループの効果には、希望をもたらすこと、私だけではなかったという体験、仲間として受け入れられること、他者を信頼し助け合うことを学ぶことがあげられる。批評せずに聴くという関係の中で、子育てを安全に行うことができない私であることを相互受容し、そんな自分でも存在してよいと自己肯定できるようになっていく。いまの自分の困難を先行く仲間の過去の境遇と照らし合わせ、自分の経過を客観視できるようになる。90分から120分のセッションを、保育士による完全母子分離、司会は保健師が行う、複数の保健師がグループの輪に入るという構造で行っている。

子どもたち

被虐待環境で育った子どもたちの多くが、自分はどうでもいい存在であり、人を助けることができず、親友を見つけることなどできず、ふさわしい異性など得られるはずもないと確信するようになる。援助を求める能力が身についていないだけで、実は助けてほしいと切望している。誰かが自分を助けてくれたという体験を一度でもしていると、治療への反応が大きく違う。

被虐待環境下の子どもには、耐えがたい出来事を記憶にとどめまいとして乖離という現象が生じる。被虐待場面の記憶を切り離し、なかったことにして、親からの期待に応えるべく、より一層の服従で適応しようとする。自己防衛としては役立つが、思春期以降に家族の外に社会生活を広げていくには障害となる。

新型コロナ

新型コロナウィルス問題は、子どもの虐待予防を危機に陥れた。安易に登園自粛を求めるべきではなく、やむを得ず自粛を求める場合は、通所にかわる養育支援を導入すべきであった。養育能力の低下している家庭は支援を求める能力も低い場合がある。

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