里親入門 第一歩はフレンドホームから
虐待に至ってしまった親たちの回復支援
虐待・親にもケアを(築地書館、森田ゆり編著 2640円)から抜粋し、とりまとめました。
虐待に至ってしまった親たちの回復支援は、子育てスキルを教える養育支援ではない。母親支援でも、父親支援でもなく、子育て支援でもなく、その人の全体性回復への支援である。虐待行動に悩む親たちは、今までの人生において他者から尊重されなかった痛みと深い悲しみを、怒りの形で子どもに爆発させている。
虐待が国の社会経済全体にもたらすコストは膨大だ。虐待に至ってしまった親たちが回復することで、どれだけの社会経済的コストを軽減することができるか計り知れない。親へのケアをすることは極めて費用対効果の高いことである。
裁判所と児童相談所
深刻な虐待に至ってしまった親へのケアが無きに等しいその最大の理由は、家庭裁判所が虐待をした親に直接、回復プログラム受講を申し渡す制度が日本にはないことである。
裁判所が厳正に判断し、児童相談所の措置の適正性が確認されることで、親も児童相談所の判断に従うことにつながる。司法対応の力量を高める児童相談所の体制の整備も課題。
家裁の中に司法福祉のスペシャリストの裁判官を養成しなければならない。
児童相談所も児童養護施設も経験主義的でソーシャルワークが名人芸になっている。対応のガイドラインやマニュアルをきちっと作っていく必要がある。
民間と組んだ保護者プログラムの必要性
厚生労働省が、自治体が民間と組んで保護者プログラムを行う場合、その人件費の半分を出すという仕組みを作るという流れを作ったのが2006年。その好機をとらえた大阪市、堺市が事業化し、2007年には大阪府も児童相談所の事業としてプロジェクトを誕生させた。2013年には大阪府・市共同実行で民間の共同事業化への発展させた。この取組を大阪方式と呼ぶ。
市町村の要保護児童対策地域協議会の全国稼働率は99%だが、システムを効果的に運用していくソーシャルワークの力量が十分でない。
児童虐待・DV対策等総合支援事業費のうち保護者指導・カウンセリング強化事業は補助金ではなく、負担金(義務付けられた費用)とする必要がある。
子どもたちの多くが心から願っていることは、親に変わってもらいたい、そしてその親と一緒に暮らしたいのである。
家裁と児相が車の両輪としてコミュニケーションを密にしていくことが求められる。
My Treeプログラム
My Treeプログラムの実践で、虐待をすることからの回復はいつでも可能。
My Treeプログラムでは、脳科学の用語は一切使わないが、偏桃体の訓練を7つにカリキュラム化している。自分がなぜ攻撃行動をしてしまうかを学ぶ、怒りの裏側の感情に向き合う、死の危険を認識する、気持ちを聴く・語る、自然と季節の変化を感じる時間を持つ、安心、呼吸法・瞑想により偏桃体の過剰な反応を鎮める訓練を続ける。
親たちは自分の意思ではプログラム受講を求めようとしない。たとえプログラムにつながっても、最後まで参加するにはかなりのモチベーションを要することに注意が必要。。
My Treeプログラムは週1回13週(毎週1回2時間)の10人前後のグループセッション+3回の個人セッション(1人50~60分)+3か月後と6か月後の同窓総会グループセッション(各2時間)からなる。
グループセッションは学びのワーク(瞑想ワーク+ロールプレイやグループワークなどの参加型ワーク)+自分をトーク(全員順番に)。合計2時間。
グループは男女別。虐待的言動のある親のみを対象。性的虐待の加害者は対象外。伴侶からのDV被害を受けている人が4割いる。アルコール・薬物依存症の課題をもつ人は並行して依存症治療への参加が必要。
虐待をする親の特性
特性として、多重のストレスを抱えている。自分を受け入れてくれるところがどこにもない、たった一人で子育てをしている。こんなダメな親は自分だけだと思っている。他者の視線、評価、世間体が過剰に気になる。低い自己肯定感。感情制御が困難で、子どもに怒りを爆発させては自己嫌悪に陥る負のサイクル。虐待通告、児相の介入、子どもの保護などの出来事にショックを受け、通告した人への怒りがある。など。グループの力によって、自分は必要のない人間とそれまで信じてきた思い込みを手放していく作業で、自分を正直に語ることで、気づかなかった自分を発見し、変わりたい自分を実現していく。
被虐待児のうち、大人になって子どもを虐待する人は33%。多数ではないが、少なくない。子どもを虐待しなくても、自分を虐待する人はいる。
重要な分岐点は、できるだけ早い時期にその子の苦悩に共感をもって理解してくれる誰かがいたかいないか。
子どもの虐待対応のフレームワーク
子どもの虐待対応のフレームワークにおける3つの柱は、
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公衆衛生の最重要課題である
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子ども観を持って対応する問題である
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子ども虐待の当事者を援助する方法はエンパワメントである。
3つの柱すべての土台は子どもの人権尊重。子どもの生きる力とは子どもが「自分は大切な人」と思えることである。
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公衆衛生の最重要課題である
15歳未満の子ども虐待死は厚労省の集計では年間7、80人だが、小児学会では350人としている。保護者、保育士、学校教職員、そして子ども自身への効果的な予防教育が虐待の発生件数を減らすことになる。アメリカで最も深刻で費用のかかる問題である。癌にかかる費用、心臓疾患にかかる費用を上回り、児童虐待を根絶すれば、うつ病の割合を半分以上、アルコール依存症を3分の2に、自殺や家庭内暴力を4分の3減らせるといわれている。
子ども観を持って対応する問題である
子育ての主人公は子ども。これが子ども観を持つということ。
子ども観として極めて重要なことは、子どもを一個人として尊重されるべき人格とみるか、それとも親や家族や国家が期待する人間像へと導く、育成の対象と見るのかの違いである。
一般的な子ども像にとらわれると、子どもをコントロールしようとする弊害が生じてしまう。
親は子供を変えようとするより、自分を変える方がずっと子育てに効果的である。
子ども観を持つことは、発達障害を病気ではなく、脳神経多様性ととらえ、治療ではなく、脳神経の違いへの理解と共感に基づく関りととらえるべきである。
自閉症の持つ、空間認知能力や細部への徹底した集中力は、定型発達の人にはできない創造をもたらす。
逆に、フツー病症候群(定型発達症候群)の症状としてあげられるのは、
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はっきりと本音を言うことが苦手。
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いつも空気を読んで行動することに懸命。
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いつも誰かと一緒でないと不安になる。
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必要なら平気で嘘をつける。
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フツー病の人たちの輪を乱すものを許さない。
発達障害の子を持つ親には4つの気(のん気、元気、根気、そしてときどき勇気)が必要。のん気が一番難しいが、ベストの方法は、その子の将来を考えるのではなく、その子の今を大切にしてあげることである。
子ども虐待の当事者を援助する方法はエンパワメントである
エンパワメントとは、人はみな生まれながらにさまざまな素晴らしい力を持っているという人間観から出発する考え方。赤ちゃんは、生き続けようとする生理的力と、人とつながろうとする社会力によって、周りの人から受け入れられ、大切にされ、視線を交し合ったり、身体接触の安心感と心地よさを感じることで自分の存在の尊さを知っていく。
外からの抑圧の最も卑近な例は「比較」、「条件付きの親の愛情」、「いじめ」、「体罰」、「虐待」。
被害者から自分を大切に思う心と自分への自信を奪い、自分の尊さ、素晴らしさを信じられなくしてしまう。
エンパワメントとはこのような外的抑圧をなくすこと、内的抑圧を減らしていくこと。
人は心を傷つけられても、その傷を自分で癒してしまう自己治癒力を持っており、これをレジリアンスと呼ぶ。適切な支援があれば、過酷な環境を生きてきた人ほど、回復がめざましい。
体罰としつけ
「体罰は時には必要」から「体罰の必要な時はない」へ。
体罰の6つの問題。
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体罰は大人の感情のはけ口であることが多い。
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痛みと恐怖感で子どもの言動をコントロールする。
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他のしつけの方法を考えなくなる。
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エスカレートする。
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見ている他の子どもにも心理的ダメージを与える。
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取り返しのつかない事故を引き起こすことがある。
体罰に変わる10のしつけの方法。
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子どもに肯定型メッセージを送る。
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子どもとルールを決めておく。
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子どもの気持ちに共感する。
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親の気持ちを言葉で伝える。
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親のタイムアウトー子どもから離れる。
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子どもと主導権争いをしないー勝とうとしない、安易に負けるのもよくない。
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子のタイムアウト(幼児から小学校低学年まで)。
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子どもに選択を求める。
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子どもの発達に合わせる。
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尊重と愛のエネルギーを親が補給する。